21.食の匠たるゆえん 2月3日記事

のどかな山あいに、馬淵川が谷底をゆったりと流れ、
身がしまる思いの寒さの中にも
しっとりとした空気が漂っている県北二戸の金田一地区。

座敷わらしで有名な金田一温泉のある金田一市街から、
やや山奥に向かった少し高いところに「そばえ庵」はあります。


予約なしで行くと食事はそばだけとなるのですが、
今回は、伝統的な南部の郷土料理ということで、
こんにゃくの刺身や柳ばっと、
ふきのとうみそなどのお膳をいただき、
その後、そばかっけ、もりそば、
最後にデザートのへっちょこ団子と
お腹いっぱいのコースをいただくことなります。

お膳を前に、終始笑顔を絶やさないおばあちゃんが脇にいて、
それぞれの郷土食の名前や材料、由来などについて、
とても丁寧に、そして軽やかに説明してくれます。
店主の米田(まいた)カヨさんです。
米田さんは、平成8年に手打ちそばで
岩手県から「食の匠」の認定を受け、
地域の料理教室などを通じて食文化の伝承活動を行っているのです。



お膳が終わり、「時間が許すなら、今日は特別に」ということで、
その場でそばかっけを作ってくれるのです。

そば粉を練っている間にも、料理が運ばれてくる合間にも、
そして、帰り間際にも、
花瓶の雑穀に触れながら、二戸で収穫される雑穀の話や、
周辺地域の「食の匠」との交流の話などが続き、
あっという間に、時間は午後の昼下がりを過ぎているのでした。



さて、郷土料理コースのお膳の中に、
切ったタマネギの上にペースト状の梅肉が載った
酢の物の小鉢がありました。
苦手な野菜のひとつである玉ねぎを恐る恐る口に運ぶと、
玉ねぎの甘さと酢のさわやかさに混じって、
梅肉がとても甘く、絶妙にフルーティに香るのが感じ取られます。

「ブルーベリーのジャムを混ぜているんですよ」

二戸の新しい特産品づくりの一環として、
地域でブルーベリーの栽培を始めたとのことで、
この郷土料理のコースにも取り入れているのだそうです。

食の匠は、単に「地域の食文化を伝える匠」としてだけではなく、
地域の将来を見据えた食文化を創る匠でもあったことに、
目が覚める思いをするのです。

皆さまのご意見やご感想をお待ちしております。

−おさらいメモ−

食の匠(しょくのたくみ)
岩手県が食文化の伝承や地場産品生産拡大のため、平成8年度から開始した事業で、地域の中で郷土料理・郷土食・特産品加工において、優れた技術や知識を持った者を「食の匠」として認定するものである。平成8年度の初年度は、米田カヨさんを含め32個人・団体が認定されており、現在は237個人・団体が認定されている。


二戸の郷土食(にのへのきょうどしょく)

柳ばっと〜そばの団子を柳の葉状にしたものに、鶏肉やきのこ、大根などの野菜を入れた汁物で、江戸時代、南部藩から農民がそばを食べることは御法度(はっと)として禁止されたことから、団子状にして食べたというものである。

そばかっけ〜そばを薄く伸ばし、
それを小さく切って豆腐や大根とともに、
味噌につけて食べます。かっけの由来は、
「これ、食え」「ほら、食え」や
そば打ちの欠片という説もある。

へっちょこ団子〜たかきび粉で作った
団子のお汁粉である。「へっちょこ」は
二戸地方の方言で「苦労」の意であり、
作業の終わりに「ご苦労さま」と
感謝をこめて作られた料理である。



「岩手」のページへ

Copyright (C) 2005-2015 しりべしのちいさな家マスター.All Lights Reserved.