プロローグ 4月26日記事

夕闇が迫る三陸に満月が昇ります。
荒涼とした平地のはるか先に灯りが見えます。
車のヘッドライトだけが人の気配を感じさせます。
冷たくも春を感じさせる風が頬をかすめます。



4月4日、わたしは三陸の大槌(おおつち)に立っていました。
ここは、街の中心、駅裏。・・・だったところ。
残された家々の基礎のコンクリートが、
池のような水たまりを作っています。

渡り鳥の親子が水面を滑ってゆきます。
あと1月も経つと雑草で覆われるのでしょう。
まるで、自然に還るかのよう。

「おまえに何ができる?」どこからか聞こえてきます。
ややしばらく、自分の存在を忘れるほどそこに立ちすくみます。
やや角度を上げた満月は
そんな戸惑いと感慨を知ってか知らずか
変わらずにやさしく見守ってくれます。



「復興のお手伝いとは、自分のペースでコツコツと仕事をすること」
そう自分に言い聞かせ、気負わない志願兵は、頬をぬぐうと、
エサを求めているお腹の虫をなだめながら、
何事もなかったかのように車に乗り込むのでした。


−おさらいメモ−

上閉伊郡大槌町(かみへいぐんおおつちちょう)

東日本大震災では、町の人口約1万5千人の1割以上に当たる1,700人以上が死亡・行方不明となり、町役場も庁舎が津波の直撃を受け、町長をはじめ多数の職員が犠牲となり役場機能はマヒした。 

(震災遺構として保存される旧大槌町役場庁舎)

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